「おりもの」と「かゆみ」について

正常の膣内には乳酸菌がいます
 成熟女性の卵巣からは、エストロゲン(卵胞ホルモン=女性ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン=排卵後や妊娠中)の2種類のホルモンが出ています。膣粘膜の皮膚にエストロゲンが作用すると、膣の細胞を増やして、膣粘膜が厚くなり丈夫になります。更年期でエストロゲンが欠乏すると膣が薄くなり傷付きやすくなるのはその為です。エストロゲンで増えた膣の細胞は、最終的には膣の中に剥がれ落ちてくるのですが、その細胞には「グリコーゲン」という澱粉(炭水化物)が多く含まれています。すると膣の中には乳酸菌(デーデルライン菌と呼ばれています)が自然に増殖し、グリコーゲンを食べて乳酸を作っています。その乳酸のよって膣の中が酸性(pH4〜5ぐらい)となり、通常の雑菌や弱い病原菌は増殖できず、膣内はきれいな状態に保たれているのです。

●膣から乳酸菌がいなくなると「おりもの」や「かゆみ」が起きます。

 膣内の酸性度が保たれなくと、雑菌やカンジダが繁殖して「おりもの」や「かゆみ」の原因となります。膣内の酸性度が低下し弱酸性〜中性〜弱アルカリ性になる原因としては、1)エストロゲンの低下による萎縮(膣自体の萎縮)、2)排卵後〜生理前にかけての黄体ホルモンの増加(グリコーゲンの減少)、3)妊娠による黄体ホルモンの増加(グリコーゲンの減少)、4)風邪などの時に処方された抗生剤の服用(膣内乳酸菌の死滅や減少)、5)雑菌や強い病原菌(=性病など)の侵入(膣内乳酸菌の死滅や減少)、などが原因です。
 よって膣炎やカンジダを発症した方に対しては、治療と平行して、膣炎の発症の原因を調べることも重要となります。たとえば、1)病歴による抗生剤服用の状態、2)卵巣機能が正常かどうか(エストロゲンが出ているか/排卵しているか=超音波検査でわかります)、3)感染を起こした病原菌の検査(細菌培養検査やクラミジア検査をします)。

●膣内に病原菌が入る。
 膣内に病原菌が入る原因は性交渉や不衛生な入浴などです。膣周囲やペニス周囲には雑菌や肛門由来の大腸菌などが付着しているため性交渉前の双方の入浴やシャワーは不要な感染を予防します。入浴では、公衆浴場の座椅子(イス)や床に菌が付着している可能性がります。不衛生な風呂の水が膣に入り感染を起こす事もあります。病原菌の種類によっては、膣炎のみならず子宮や卵管の炎症が起きるので膣炎の予防は重要です。またコンドームは「避妊目的」以外にも性感染症(性病)の予防に有用です。時には男性の尿道や前立腺に菌が常在(慢性感染)して、精液に混じって膣内に入り、感染を繰り返すこともあります。
 膣内から病原菌がいなくなれば、乳酸菌は自然に膣内で増殖し正常の状態に戻ります。

●すべての病原菌が検出できる訳ではありません。
 時には「おりもの」が多いのに、検査で「全く異常なし」という結果が出る事もあります。この場合には正常な生理的な反応(排卵期のおりもの)で心配ない場合(=診察で膣内が正常)と、明らかに膣炎や頚管炎(子宮の入口が赤く腫れて痛みがある)があるのに病原菌が出ない時があります。これは検査法に限界があるために実際には病原菌がいるのにも関わらず検出できないからで、嫌気性菌の感染・ウィルス感染・マイコプラズマ感染などが起きていることがあります。また通常の培養では検出できない特殊な菌もいます。

●カンジダ膣外陰炎について
 膣・外陰カンジダ感染症は、Candida albicans という病原体(=真菌=カビの仲間)による膣炎・外陰炎です。カンジダは膣内・膣粘膜・外陰(小陰唇や大陰唇)・肛門周囲などで、菌糸(正確には「偽菌糸」)を出して、皮膚に侵入し、最終的には皮膚表面・皮膚角質層・皮膚真皮層に定着します。
 カンジダの感染経路には、性交感染・自己感染・産道感染および家族内感染の4つの感染様式が考えられています。

●常在菌と起炎菌。
 カンジダや通常の細菌などは、皮膚に付着はしていますが、発病(何らかの症状が出る事)はしていません。そういう状態を常在菌と言います。
 カンジダの場合は、皮膚や膣の中や男性のペニスに付着している事があります(常在菌の状態です)。しかし、かゆみやおりものがあるわけではありません。とくに皮膚表面が乾燥しているとカンジダは皮膚に付着しているだけで、入浴すれば垢と一緒に剥げ落ちていきます。また付着しますが、やはり皮膚が乾燥していれば発病はしません。カンジダは、水分が多く弱酸性の場所では、菌糸(偽菌糸)を伸ばして皮膚に侵入し発病します。よって膣内・股の間・乳房の下の汗をかく部分などはカンジダの好発部位になります。

●カンジダの再発。
 カンジダはいったん発病すると皮膚真皮層に侵入し、胞子(分芽胞子)の状態で長期間生存します。そのため抗真菌剤などによって症状が消えても、膣粘膜の皮膚の内側(真皮層や角質層)に残っていることがあります。つまり「かゆみ症状」がとれた時は、膣内には乳酸菌がもどって(再繁殖して)酸性度が強くなったため「カンジダは休眠しているだけ」のことが多いのです。そのため症状が消えた後も、数週間ぐらいは治療を続ける必要があります。
 1)カンジダが残っていると、黄体ホルモンの増加(排卵後〜生理前・妊娠)・雑菌による膣炎・風邪などに対する抗生剤の服用などで、容易に再発(再発病)します。
 2)時には、セックスパートナーのペニスにカンジダが常在していて再感染によって発病する場合もあります。


追加:「かゆみ」のメカニズム

 皮膚は、表皮・真皮・皮下組織という3つの層からできています。表皮は皮膚の一番外側にあり、外部からの有害物質が侵入するのを防いだり、体内の水分などを保つなどの役割を果たしています。真皮は表皮の内側にあります。真皮の約70%はコラーゲンでできていて皮膚の弾力のもととなっています。この真皮内に、「痛み」や「かゆみ」を知覚する神経があり、また皮脂を分泌する皮脂腺、汗を分泌する汗腺(エクリン腺、アポクリン腺)、毛包などの組織も存在しています。
 「かゆみ」の詳しいメカニズムはまだ分かっていませんが、皮膚の真皮にある肥満細胞から分泌されるヒスタミンが「かゆみ」を引き起こすことが知られています。ヒスタミンは「かゆみ」の「知覚神経」に作用し、その刺激が“かゆみ”として脳に伝えられると同時に、その刺激は逆行性に神経終末にも伝えられ、神経ペプチドと呼ばれる神経伝達物質を放出させます。この神経ペプチドはまた肥満細胞を刺激し更にヒスタミンを分泌させると考えられています。
 「かゆいから掻く」といった刺激の場合、かゆみを伝える神経は細く刺激が弱いので脳はかゆみの刺激を感じにくく、痛みや冷感の神経は太く刺激が強いので 脳はそちらの刺激を感じとり、一時的にかゆみを感じなくさせます。逆に、掻く事によって皮膚の知覚神経を刺激し、神経ペプチドを放出させ、さらに「かゆみ物質(ヒスタミン)」の分泌を促してしまいます。そのため、どんどん「かゆみ」が強くなって拡がっていくという現象がみられます。
 「掻けば更に痒くなる」と分かっていても「かゆみ」はなかなか我慢できるものではありません。


●婦人科領域における「かゆみ」の原因
A.感染症
 1.カンジダなどの真菌感染によるもの
 2.トリコモナス膣炎
 3.毛じらみ、など
B.アレルギー反応によるもの
 1.「生理ナプキン」や「おりものシート」による接触皮膚炎
 2.その他のアレルゲンに対する反応(下着など)
C.女性ホルモンの低下によるもの(老人性皮膚掻痒症)
D.原因不明のもの(外陰掻痒症)

●かゆみの治療。
 「一過性」や「慢性のかゆみ」に対してはかゆみ止めの軟膏や抗ヒスタミン剤・抗アレルギー剤の内服を行いますが、病原菌の感染(カンジダなど)によるものであれば「抗菌剤」や「抗真菌剤」を使わないと治りません。

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