子宮内膜症外来のご案内
1.子宮内膜症について
2.子宮内膜症の診断
3.子宮内膜症の治療
子宮内膜症とは?
通常の女性では子宮内膜(生理=月経時に剥がれて出血する部分)は子宮の内側にありますが、その子宮内膜が何らかの原因によって子宮の内側以外の場所(異所性)に発生した(できた)状態です。生理=月経の時には異所性の子宮内膜でも出血が起こりますので、生理痛や腹痛が強くなります。従いまして「子宮内膜症」は女性特有の病気で、男性にはありません。
子宮内膜症は生理が始まって(初経)から数年~10数年で発症すると考えられ、20代後半から30才台に多く発症し、徐々にまたは急激に進行します(10代後半で発病する方も時々います)。わが国では、30才台の女性の150人に1人が子宮内膜症の治療を受けているとの報告があります。子宮内膜症は治療や妊娠によって一時的に消失したり退縮したりしますが基本的には閉経するまで治りません。
子宮内膜症は文明病とも言われ、発展途上国の女性に少なく、欧米や日本などの先進諸国の女性に多く発症します。わが国では子宮内膜症が増えたのは1980年代からです。以前私達が大学病院の手術記録で子宮内膜症の頻度を調べた時のことですが、1960年~1970年代では手術症例全体の約5%に子宮内膜症の診断がありましたが、1980年後半には25%に増加していました。その後は調査をしていませんがおそらくもっと増えている事でしょう。
子宮内膜症の発生原因として以下のいくつかの考え方がありますが説明は省略します。
1)月経血の逆流に伴う子宮内膜の腹腔内散布説
2)骨盤腹膜などの子宮内膜化生説
3)胎生期の子宮内膜遺残説
4)自己免疫説
5)子宮内膜の連続的侵入説
6)ダイオキシン説、子宮内感染説、など
先進諸国の女性に子宮内膜症が多く発症する原因は女性の晩婚化が最も関連があると考えられています。アジアで子宮内膜症の発生頻度が高いのは日本だけでした。中国や韓国の女性は比較的早く(20才台前半までに)結婚し出産します。出産が子宮内膜症の発生を減らすことは以前から知られています。戦前の日本では16~18才で生理が始まり、生理が始まる頃には結婚し妊娠・出産していました。このような時代では子宮内膜症は発症できないのです。最近は中国や韓国でも女性の晩婚化が始まっていますので、子宮内膜症が増加していると思われます。
子宮内膜症が発生しやすい場所は腹腔内の下の方で、卵巣・子宮・ダグラス窩・大腸や直腸などの表面や内部に発生します。まれに肺・臍・帝王切開の傷跡などにも発生します。
子宮内膜症の何が問題なのか
子宮内膜症は「女性ホルモン(エストロゲン)依存性=エストロゲンによって病変が持続されるという意味」の疾患と説明されています。実際にエストロゲンが低下する(閉経)と子宮子宮内膜症は自然に退縮しますが、エストロゲンが高い状態が持続しても(例えば妊娠中は)子宮子宮内膜症は退縮します。妊娠中に内膜症が退縮するのは月経が停まるからです。この点から考えると子宮内膜症の病態は、むしろエストロゲン依存性というよりは月経依存性と言った方が正しいかも知れません。
子宮内膜症の病変は内膜症ができた部位の子宮内膜の出血によって生じます。その結果、卵巣が腫れたり(チョコレート嚢胞)、子宮が腫れたり(子宮腺筋症)、腸が腫れたり(腸管子宮内膜症)し、更にその病変の周囲に硬い癒着ができます。卵巣の腫れは「卵巣チョコレート嚢胞」となって腹痛や卵巣がん(頻度は少ない:1%前後)を起こし、子宮の腫れは子宮腺筋症となって激しい生理痛(月経困難症)や生理の量の増加(月経過多症)を起こします。腸の子宮内膜症は、排便時の痛み、腸からの出血、腸閉塞などを起こします。
子宮内膜には子宮内膜の腺細胞と間質細胞があり、それらの細胞は卵胞ホルモン(エストロゲン)の作用を受けて増殖しますが、エストロゲンと黄体ホルモン(プロゲステロン)が急激に減少すると剥離し生理(=月経)となって出血します。生理が起きる時は、異所性にできた子宮内膜の部分も似たような変化を起こして出血します。そのような出血が体外に出てしまえば問題はないのですが、子宮内膜の剥離・出血の際には、出血部位からさまざまな化学伝達物質(サイトカイン)を分泌しますので、それらの物質が炎症反応を起こします。その炎症反応が痛みや癒着の原因となるのです。
子宮内膜症の部位で起きる炎症反応こそが、内膜症の犯人です。炎症反応を止めれば痛みはなくなり、癒着は(ある程度まで改善し、時には消失する事もあります。通常の炎症反応は病原菌の感染や組織の損傷(傷や手術)によって起こりますが、子宮内膜症の炎症は生理によって子宮内膜が剥離することによって起こります。病原菌の感染には抗生剤や抗菌剤や抗ウィルス剤が、傷の治療には化膿止めや抗炎症剤が有効ですが、子宮内膜症の治療には生理を止めるのが有効です。
生理は自然に止まることがあります。生理が止まる原因としては、妊娠や閉経が最も大きなものですが、それ以外にも、強い精神的ストレスによる卵巣機能不全や激しい運動(たとえばマラソンやトライアスロンの選手など)やヒマラヤなどの登山などによって生理が止まることがあります。しかし健康な女性の生理を止めるのは難しく簡単には行きません。
子宮内膜症の診断は、(1)症状・(2)内診(婦人科総合診や直腸診)・(3)画像診断(超音波検査・ CT検査・MRI検査)・(4)病理組織検査、で行われます。
最も簡単な診断は、(1)症状から「子宮内膜症」を疑う事です。「子宮内膜症」の典型的な症状は、(a)月経時の痛み(生理痛=月経困難症)や(b)月経の際の下痢や軟便です。)c)子宮腺筋症で月経が多く「貧血」となる方もいます。その他としては(d)PMS、(e)性交痛、などがあります。
総合病院以外の産婦人科クリニックを受診した場合には、CTやMRIの様な高額の医療機器がありませんので、「内診」と「超音波検査」で診断を行います。当院の経験では90%前後の確率で診断可能と考えます。
「子宮内膜症」の診断にはCTよりはMRIが優れています(CTとMRIの違いは省略します)。最終的な確定診断は「病理組織検査」ですが、手術や組織の一部を採取(=切除)しなくてはなりませんので、一般的な診断には向いていません。
子宮内膜症の治療法:
(1)鎮痛剤で経過観察を行う:軽度の内膜症であればこの方法でも有効な場合があります。結婚していたり、パートナーがいたりして「妊娠可能」な女性が対象です。子宮内膜症のない生理痛のみの女性にも勧められる治療です。
(2)手術療法を受ける:子宮や卵巣を残して内膜症の部分のみを切除する手術が一般的です。卵巣にできたチョコレート嚢腫のサイズが大きく放置すれば破裂する危険性が高い時や、内膜症が妊娠を妨害していると判断したとき、卵巣がんの可能性があるとき、などに行います。欠点は、手術後に妊娠をしない場合の子宮内膜症(卵巣チョコレート嚢腫)の再発率が約40%と高いことです。後半の「子宮内膜症」の手術療法の項目をお読み下さい。
(3)妊娠する:妊娠すると約9ヶ月間は生理が止まります(妊娠無月経)。また授乳中も生理が止まりますので(産褥無月経、授乳性無月経)、通常の妊娠女性は1年半〜2年間ぐらいは生理が無くなります。その後に生理が再開しても子宮内膜症が消えている方もいます。子宮内膜症が残っていれば、生理が再開してから6ヶ月〜2年ぐらいで「再発」します。従いまして、2人目・3人目と続けて出産すれば「内膜症の再発」は少なくなります。
(4)月経を減らしたたり、月経を止める薬を服用する:生理痛(月経困難証)の薬物治療(内服薬・注射薬・点鼻スプレー)と同様な使用法です。このHPの「生理痛(月経困難証)の薬物治療」をご覧下さい。
A.妊娠を希望する時の治療法:
- 妊娠すると子宮内膜症が軽快しますので、出来るだけ早く妊娠するように、排卵誘発や人工受精や体外受精(=生食補助医療)など、不妊治療に準じた方法で行います。
- 妊娠を目的に治療をしますので、妊娠しないと生理がきます。生理痛に対しては、痛み止めを内服していただきます。
B.妊娠を希望しない時の治療法
- 経過観察
3~6ヶ月に一度の外来経過観察をします。子宮内膜症の所見や症状が軽い時や薬の嫌いな方に行います。 - 消炎鎮痛剤
消炎鎮痛剤の内服:子宮内膜症があっても、程度が軽く生理痛だけが強い方。別項目で記載したLEPや経口避妊薬(ピル)の服用に抵抗がある方に勧めます。
子宮内膜症治療薬
「このHPの「生理痛(月経困難証)の薬物治療」をご覧下さい。」GnRH療法:GnRHには「アゴニスト」と「アンタゴニスト」があります。内服薬には「LEP(低用量エストロゲン・黄体ホルモン配合薬)」と「プロゲスチン」の2種類があります。それぞれに、別記の一覧のような治療薬があります。
手術療法:
A.保存的手術(子宮や卵巣を残し、妊娠の可能性や月経が残る治療)
術式:卵巣嚢腫切除術・片側付属器切除術・癒着剥離術・子宮腺筋症縮小術など。
手術を勧める場合:
- 薬物療法が有効で無い時
- 不妊症の原因が子宮内膜症と考えられる時
- 卵巣にチョコレート嚢腫(嚢胞)があり、薬物療法をしても4~5cm以上の大きさがあり30才後半を過ぎている時、破裂の可能性がある時。
- 子宮や卵巣を全部摘出するのがイヤな方は保存的手術(子宮や卵巣を残す)もあります。
また、子宮内膜症の再発がイヤな方には根治手術(子宮+両側卵巣切除)があります。
1.保存的手術の利点:
1. 子宮や卵巣が残るので、妊娠の可能性が残り月経がある。
2. 手術の侵襲が少なく術後の回復が早いことがある。
2.保存的手術の欠点:
1. 月経痛や排卵痛が軽減するが消失はしない。
2. 子宮内膜症の点数が高いと、術後に再発が多い(子宮内膜症の4期では40~60%)。
3. 手術により子宮周囲の癒着(卵巣周囲や大腸/小腸)が強くなり、術後に排卵痛・下腹痛・排便痛・が強くなることがある。「腸閉塞」の危険性が高くなる。
4. チョコレート嚢腫が再発すると卵巣がんが発生する危険性が残る(1%前後)。
B.根治的手術
通常は子宮全摘術と両側の卵巣/卵管の切除術を指しますが、一方の卵巣が全く異常が無い時には片方の卵巣だけ残すこともあります。
1.根治的手術の利点:
1. 子宮や卵巣がなくなり、術後には生理痛や排卵痛、下腹痛がなくなる。
2. 子宮内膜症の再発がない。
3. 卵巣がんの可能性がなくなる。
2.根治的手術の欠点:
1. 子宮や卵巣がなくなり、一部の女性に「喪失感」が生じる
2. 卵巣がなくなり、卵巣ホルモン(エストロゲン)が低下するので、3. 更年期症状が予定の閉経より早く出現する。
4. 卵巣ホルモン(エストロゲン)が低下するため、骨粗鬆症や高脂血症のリスクが高まる。その結果ホルモン補充療法が必要になる。